私の夏

思ったことを日々淡々と綴ります

The Beatlesと尾崎豊と鞘師里保

かつて存在した時代や人のほうが、現に存在しているものより優れているという幻想は、あらゆる時代に流れているものである。

僕は小学生の頃、暑い日におやじの車で買い物に行くことが好きだった。どちらが前に座るか、姉と毎回じゃんけんをして決めていた記憶が蘇る。たかがマーチの助手席でも、小学生の僕にとっては優越感に浸れる特等席だったらしい。行き先はスーパーとホームセンター。おやじが僕を連れて行ってくれる場所はだいたい決まっている。冷房の効きが悪いので、レギュレータハンドルをぐるぐる回転させて窓を開けた。心地よい風を感じながら、おやじの好きなビートルズと尾崎の曲がシャッフルされて流れてくる。英語も尾崎も知らなかったのに、なぜか好きだった。その影響で中高生の頃は、デスクトップでビートルズと尾崎の動画を漁った。

 

僕は今日、YouTubeで「鞘師里保」と検索する。7年前のムーンライトの動画でも1080pで見れるのだから現代のネットには感謝しかない。

なぜ鞘師に興味を持つようになったかというのは、彼女の魅力を熱く語る松岡茉優を見てからだ。松岡茉優の動画をクリックしたあの時の自分を褒めたいと思う。目が大きいとか鼻が高いとか、特別な美人ではないのになぜかずっと見てしまう。鞘師がエースと呼ばれるまで時間がかからなかったように、僕は彼女の魅力にすぐにのめり込んでいった。

しかし僕が見ているのは鞘師里保の過去でしかない。彼女は2015年にモーニング娘。を卒業して以来メディアに顔を出さない。周りの友人たちがbuck number や乃木坂のライブに行ってる中、僕は買ったばかりのiPhone8と見つめ合っている。結局大学生になった今でも、誰かのライブに行ったことはないし、僕が好きな歌手はもう画面でしか見ることができない。

 

ビートルズも尾崎も鞘師も若くして第一線から退いた。過去は美化される。さらに真実が明らかになっていない過去はなおさら人々の好奇心を誘う。ビートルズ解散の理由も尾崎の死因も、鞘師はなぜあのタイミングで卒業したのかも。僕たちは勝手な憶測で物事を決めるのが大好きな生き物だ。そこには「憂い」というキーワードが共通して存在しているのも興味深い。

 

僕は来週ニューヨークへ行く。ジョンレノンが殺害され、尾崎と鞘師が留学した地だ。セントラルパークの近くの宿を探していたら、ふとおやじの車で流れていたビートルズの「Strawberry Fields Forever」が脳内で再生された。

Let me take you down Cause I’m going to Strawberry Fields
Nothing is real and nothing to get hung about Strawberry Fields forever

君を連れて行かせてくれ
僕はストロベリーフィールドに行かなきゃいけないから
真実はどこにもないし心配事も何もないよ
ストロベリー・フィールドよ永遠に

Living is easy with eyes closed
Misunderstanding all you see
It’s getting hard to be someone
But it all works out
It doesn’t matter much to me

目を閉じながら生きていく方が簡単なんだよ
見えているものは全て幻想だから
何かになるってのは、大変なこと
でもなんとかなるさ
僕にとってはどうでもいいことだけどね

 

僕がYouTubeで見ている過去の映像は、時間と共に美化され、勝手な憶測から幻想へと変化しつつある。その経験は生まれてから20年間でたくさんしてきた。そろそろ同じ時間軸の中に僕を連れて行ってほしい。